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FastLane

このブログは主に、IDWにて取り扱われている、ソニック・ザ・ヘッジホッグのコミックを、日本語で紹介しているブログです。記事の更新は完全に終了しました。

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橋の上の騎士

『ソニックと暗黒の騎士』の前日談的な短編モノ。
一応、原典となるアーサー王物語を参考にしていますが、ほとんど独自解釈なので、ご注意くださいませ。
「そこをどけ!宮廷旅団のお通りだぞ!」
甲冑を着た兵士たちが橋の上で立ち往生していた。
そのためか、彼らの言葉は宮廷旅団の護衛の兵士とは思えないほど、どこか荒々しい。
それもそのはず、この河の向こう側に行くための唯一の橋の中央で鎧の上から赤き外套を身に包んだ騎士が彼らの前に立ちふさがっているからだ。
「それがどうしたってんだよ!」
外套の騎士は、その場に一歩も引かず、彼らを睨みつけている。
そこをどければ、良いはずなのだろうが、彼はそれを決してしない。
そう、外套の騎士の後ろには、一人の女の子が倒れこんでいたからだ。
「うぅ…」
少女は膝から血を流しており、そこから立ち上がれないようだ。
どうやら、この石橋で転び、足を痛めたのだろう。
橋の上で動けないところを、この宮廷旅団の馬車が通り、橋の上で倒れこんでいる少女を無視して、容赦なく通ろうとした時、この外套の騎士が少女の前に立ち、少女を庇ったのだ。
兵士は再び、『そこをどけっ!』と少女を庇う外套の騎士に荒々しく言う。
「やれやれだぜ…!そんなに通りたけりゃあ、俺をブッ倒してからにしな!」
外套の騎士は懐から、二振りの剣を取り出して、構える。
たった一人の少女のために、この宮廷旅団の護衛である兵士たちを相手にしようとするのだ、誰の目から見ても、それは蛮行以外の何者でもない。
だが、彼が庇う少女からすれば、英雄である事は間違いない。
そして、外套の騎士の覚悟はすでに出来ている。
覚悟を決めた者は強い。
「うっ…!」
「誰も来ないのか?なら、この道は諦める事だな!」
外套の騎士から放たれる気迫-と言うよりも殺気-に、兵士たちは剣を構えるものの、動く事は出来ない。
「…どうした?」
護衛の兵士たちに見かねたのか、馬車から身の丈はある剣を携えた漆黒の騎士が降りてきた。
「ランスロット様ッ!」
ランスロット―それがその漆黒の騎士の名前だ。
護衛の兵士たちは、外套の騎士を指差しながら、現状を説明する。
「ここは僕が出よう。」
「いや、ランスロット様のお手をお借りするわけには…」
事情を把握したランスロットは、護衛の兵士たちの声も無視しながら、身の丈はある剣を手に取る。
護衛の兵士たちは気が付いていないだろう、馬車が一台通るぐらいの幅しかないこの橋の上での戦いでは、一対多の物量で押し切る戦いなどはできないと言う事を。
ただの睨み合いで足を竦めてしまう兵士たちが、この外套の騎士に一対一で勝てるはずがない。
どちらにしても、自分が出るのであれば、犠牲は少ない方が良い。
ランスロットは、そう思ったからこそ、剣を手にしたのだ。
その名前は、外套の騎士も聞いた事があった。
「ランスロット…そうか、アンタが円卓の騎士でも最強を誇る騎士、ランスロットか!」
「…ほう、僕を知っているのか?」
ランスロットの上から見下ろす、物動じない冷静な言い草に、外套の騎士は『当然だろ』と少々、乱暴に言い返した。
「だが、お前を倒せば、俺が最強の騎士って事だろ?なら、やってやるぜっ!」
外套の騎士はそう言うと、漆黒の騎士・ランスロットへ向かって飛び込み、両手に持った剣を、力任せに振り下ろす。
それは外套の騎士にとって、必殺の一撃であり、大抵、この一撃で勝負が終わるのだ。
相手が剣を防御として使っても、その剣をへし折るほどの威力があり、外套の騎士にしてみれば、必殺の一撃だ。
当然、外套の騎士は『勝った!』と思っていた。
だが、現実はいつもの結果と異なっていた。
ランスロットはその大きな剣で、外套の騎士の攻撃を受け止めていたのだ。
「なっ!?」
「むぅ、確かに良い攻めだ。だが、防がれた時の隙も大きい!」
ランスロットは外套の騎士の体をいとも簡単に払いのけると、その大剣の柄で一撃を加えた。
『ぐっ!』と言う小さなうめき声を上げながら、外套の騎士の体は大きく吹き飛ぶ。
「防いだとは言え、僕に一撃を加えた騎士だ。命までは取りはしない。」
ランスロットは、倒れこんだ外套の騎士にそう言うと、その大剣を納めた。
「ランスロット様、お手数をお掛けしました!」
「いや、良い。」
兵士たちの言葉に、ランスロットは小さく頷く。
『しかし、僕のこの剣が聖剣アロンダイトでなければ、逆にやられていただろう。』
護衛の兵士たちは自分の勝利を当然のように思っているだろうが、ランスロットは、自身が持つ聖剣アロンダイトを見ながら、自分の心の中でそう呟いた。
決して、刃こぼれしないと言われるのが、この聖剣アロンダイトの特徴だ。
もし、他の剣であれば…アロンダイトに選ばれる前に彼と対峙していれば、やられていたのは自分自身だったかもしれない。
そう思うと、ランスロットは、額から一筋の汗を流すのだった。
「…待てよ…!」
「ッ!」
馬車に戻ろうとしたランスロットは、その声に驚く。
外套の騎士は再び、立ち上がっていたのだ。
「コイツ、しつこいんだよ!」
「やめろ!」
兵士の一人が、外套の騎士を殴りつけようとしたが、ランスロットはそれを反射的に止めた。
「ランスロット様…これ以上、お手数をお掛けするわけには…」
ランスロットは、食って掛かる兵士を睨みつける。
最強の騎士と言われるランスロットに睨まれてしまった兵士は、何も言えず、引き下がるしかない。
「何故だ?何故、君は一人の少女のために立ち上がれる?君とは全く、関係のない子なのだろう?」
ランスロットは、兜のバイザーを上げて、外套の騎士に問う。
一方の外套の騎士は、立っているのがやっとの状況なのだが、ランスロットの困惑を含んだ瞳を見て、不敵にニヤリと笑ってみせる。
「守りたいモノを守るってのが騎士道だろう?俺はテコでも持ってこなきゃ、動かないぜ…!」
恐らくこの騎士は、この場で絶命したとしても、この少女がここを立ち去るまで、石のように動く事を拒むだろう。
その一言で、ランスロットはこの騎士の本質を見た。
『“アレ”を運ぶために、この道を通った事は、何かの運命だったか。』
ランスロットはその視線を、馬車の荷台に乗せてある荷物に向ける。
心なしかその瞬間、荷物が動いたように見えた。
『聖なる武具は自らがその使い手を決める…僕がアロンダイトに選ばれたように。ならば、ガラティンはこの騎士を選んだと言う事か。』
ランスロットは再び、外套の騎士に視線を向け、一つの答えを導き出す。
「赤き外套の騎士よ、ここは僕たちが退こう。」
「…?なんだよ、そりゃあ…」
ランスロットから発せられた言葉に、外套の騎士は逆に不思議そうな顔をして言い返した。
「つまり、君の勝ちと言う事だ。」
続けて発せられたランスロットの言葉に、外套の騎士は納得できない様子だったが、自分の勝ちだと言われれば、気分も悪くはない。
外套の騎士は緊張の糸が切れたのか、『ふぅ』とため息を吐きながら、ゆっくりと腰をついた。


「赤い騎士さん、ありがとうデス!」
少女は橋を渡ると、赤い騎士に向かって大きく手を振った。
外套の騎士も、それに応えるかのように、手を振る。
ランスロットの命令により、宮廷旅団の医者が少女の怪我の治療を施したのだ。
少女の怪我はそう重たくはなく、膝を強く打ち付けて、一時的に立てなくなっていただけのようだ。
何度か手を振り合うと、少女は橋の向こう側へと駆け出して行き、やがて、見えなくなった。
「どういう風の吹き回しだよ。」
少女が見えなくなり、手を振り止めた外套の騎士はランスロットに問う。
「これが僕なりの騎士道と言うものだ。」
ランスロットのその言葉に、外套の騎士は『なるほど』と言い返した。
「ところで、これから君はどうするんだ?」
「あぁ、俺は今、流浪の騎士だからなぁ。ここでアンタともお別れだ。」
外套の騎士のその答えを聞くと、ランスロットは『ちょうど良い』と呟いた。
「君のその強さ、ぜひとも我が主のアーサー王に見せてみたい。どうだ、これから一緒にキャメロット城まで来ないか?」
ランスロットの思ってもみない言葉に、外套の騎士は『それも悪くないかな』と考え込む。
放浪の騎士から宮廷の騎士へとなるのだから、ランスロットは外套の騎士が首を縦に振ると思っていたが、現実にはそうはならなかった。
「この世界、まだまだ強いヤツが多いからな。もっと自分の力を試してみたいんだ。」
自分が思っていた答えが外套の騎士の口から出なかったものの、ランスロットは特に何も言わなかった。
なぜなら、ランスロットは知っているからだ。
この騎士がガラティンに選ばれ、自分と共に剣を並べる事を。
「最後に、君の名前を教えてくれないか?」
「…俺の名前はガウェイン。アンタを倒せるようになったら、城まで行ってやるよ。」
ガウェインはにやりと笑うと、その笑みを向けられたランスロットも『フン』と笑ってみせた。
そして、ガウェインは『じゃあな』と言うと、馬車とは正反対の方向へ歩いていく。
ランスロットも、すぐに馬車に乗り込み、キャメロット城への帰路につくのだった…


その後、ランスロットと別れたガウェインではあったが、数々の武勲を立てた後、ランスロットの進言により、アーサー王によってキャメロット城へと召還される。
名君として名高いアーサー王が持つ騎士道に触れたガウェインは放浪の身を捨て、アーサー王に仕える事を決める。
そして、円卓の騎士に任命され、聖なる武具のひとつであるガラティンに選ばれると、ランスロットと並び立つ騎士となっていく。
また、己の騎士道を押し通す姿に、人々は彼を尊敬の意を込めて、『忠義の騎士』と呼ぶのだった。

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